中国AI市場勉強会のこぼれ話

中国AI市場勉強会について、日本でお話させていただいた時、質疑応答やその後の議論で出てきた話題もあるので、補足します。

勉強会の内容については、Bouncyさんに記事にしていただきました。

数千億円とか数十億円とか。ケタ違いな中国の最新AI事情 - bouncy / バウンシー

 

1.中国AI企業の海外展開について

 「彼らの技術や資金がすごいことは理解したが、グローバル展開を考えている会社はどの程度あるのか」という質問をいただきました。

 私は、この辺りは中国企業一般の現在の大きな課題じゃないかなと考えております。BAT(Baidu, Alibaba, Tensent)の時価総額は大きく膨らんでおりますが、大部分は中国内のビジネスにとどまっており、海外で存在感はそれほど大きくありません。海外で存在感のあるIT企業は、基地局のファーウェイ、IBMのPC事業を買収したLENOVOなど限られております。特にインターネットサービスでは、国内外の競争環境や文化が違いすぎるのが原因ではと思っております。ただ、自動運転技術や、顔認証技術など、比較的文化に左右されない要素技術志向の会社は海外でもビジネスを伸ばしており、この分野では可能性があるのでは、と感じています。

 

2.中国AI市場の興隆に対する日本企業の立ち位置について

 「中国AIがすごいことは理解したが、日本企業はどう向かえばいいのか」という質問も複数いただきました。私の感覚に一番近いのは、下記のNVCC劉さんの記事です。

変化を恐れすぎず、チャンスと捉えればよいのでは、ということです。 

astavision.com

 

3.中国行政のデータ活用に関して

 中国工業設計院が主催しているOpen Data Appsコンテストについて紹介した時、サンプルデータがかなり可用性が高いフォーマットになっており、おそらくデータサイエンスを理解している人が行政側でしっかり機能しているのでは、という話になりました。上海のデータを使って作成したアプリを温州の公安が採用したという事例もあり、地方政府間のデータ共有もかなり進んでいるのでは、という推測もできます。このあたりは、地味に中国がデータ活用で高い競争力を持つ要因になるのでは、という議論がありました。

 また、このOpen Data Appコンテスト(SODA Challenge)は、優秀作品が大手IT企業から1億元(約17億円)の投資を受けたり、中国政府政府に即採用されたりする実績がある、かなり規格外のチャンスがあるコンテストです。国際コンテストですが、日本から参加したチームは、今のところほとんど無いとのことですので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

SODA上海开放数据创新应用大赛

 

4.中国のAIの軍事利用について

 これも質問を受けました。この件については、下記のWiredの記事が参考になると思います。

 

wired.jp

 現在、深層学習用のチップはnVidia一択という状況ですが、中国政府は軍事目的の半導体チップを外国に握られることを良しとせず、自前で開発したい意図があるという記載があります。

 基本的に、中国政府のAI利用は、顔認証、ID認証など治安維持や監視目的、交通コントロールなどの目的が多いですが、データを利用しての予測、識別を担うAIは、軍事目的にも大変有用な技術なので、当然大いにこの分野での利用を考えていると思いますし、なるべく自国産の技術で固めたい思惑もあると思います。

   この記事には、半導体の先端微細化技術では中国は数世代遅れをとっており、AIのコア技術についても高度な知識では後れをとっていると言及されています。ですが、スーパーコンピュータのランキングではここ数年トップレベルを維持し、米国の著名エンジニアにも中華系の方は多数おり、半導体生産にも巨額投資を続けていることを考えると、数年後の技術水準は予断を許さないのでは、と個人的には思います。